社長が認知症になったら会社はどうなるのか

結論からいうと、社長が認知症になったからといって、会社そのものが自動的に経営不能になるわけではありません。
ただし、社長が「株主」と「代表取締役」の両方を兼ねている会社では、株式の議決権と会社経営の両面で問題が生じる可能性があります。

1.まず「社長が認知症になった=会社が終わる」ではありません

会社は法人なので、社長個人とは別の存在です。

そのため、社長が認知症になっても、

  • 会社の銀行口座
  • 従業員との雇用契約
  • 取引先との契約
  • 会社名義の不動産
  • 会社そのもの

が直ちに使えなくなるわけではありません。

問題になるのは、社長個人が担っている権限をどうするかです。

特にオーナー企業では、

社長が代表取締役として会社を経営している

社長が株主として議決権を持っている

という二つの問題があります。

2.「代表取締役」としての問題

例えば、社長が100%株主で、代表取締役も務めている会社を考えてみます。

社長が認知症になり、判断能力が低下したとしても、それだけで代表取締役の地位が自動的に消滅するわけではありません。

しかし、

  • 契約の締結
  • 金融機関との重要な取引
  • 借入
  • 不動産の売買
  • 従業員に関する重要な判断
  • M&A
  • 会社の重要な意思決定

など、代表取締役として判断しなければならない場面で問題が生じる可能性があります。

つまり、

「会社は存在している。でも、代表取締役として適切に判断できない」

という状態になる可能性があります。

3.では、息子が代わりに契約すればいい?

ここも注意が必要です。

社長が認知症になったからといって、

「息子だから、社長の代わりに会社の契約書へ署名します」

ということが当然にできるわけではありません。

会社の代表権を持っていない人が、勝手に代表取締役として契約することはできません。

そのため、あらかじめ、

  • 後継者を取締役にしておく
  • 代表取締役の交代について検討しておく
  • 定款や機関設計を確認する

など、会社法上の準備をしておくことが重要です。

4.さらに重要なのが「社長が株主」の問題

実は、オーナー企業ではこちらの問題が非常に重要です。

例えば、

社長が自社株100%を保有している

とします。

社長が認知症になった場合、会社の株式そのものは社長の財産として残ります。

しかし、株主総会で議決権を行使するには、株主として意思表示をする必要があります。

そこで、

「息子がいるから、息子が代わりに議決権を行使すればいい」

とは簡単にはいきません。

これが、自社株の認知症対策が重要な理由です。

5.成年後見制度を利用する方法

社長の判断能力が低下した場合の法的な対応の一つとして、成年後見制度があります。

家庭裁判所によって成年後見人が選任されれば、本人の財産管理や法律行為を支援することができます。

ただし、会社の経営については別問題です。

例えば、

社長=代表取締役

社長=100%株主

という会社の場合、

「成年後見人を付ければ、会社の問題が全部解決する」

とは限りません。

会社法上の役員の問題と、本人の財産管理の問題を分けて考える必要があります。

また、成年後見制度では、家庭裁判所の関与や成年後見人の選任なども必要になるため、経営者の希望どおりに柔軟な財産管理ができるとは限りません。

6.そこで「自社株の家族信託」という選択肢

ここで検討されるのが、

自社株を家族信託しておく方法

です。

例えば、

  • 委託者:社長
  • 受託者:後継者である長男
  • 受益者:社長
  • 信託財産:社長が保有する自社株

という仕組みです。

これにより、信託された株式については、受託者が株主として権利を行使する仕組みをあらかじめ用意できます。

つまり、

社長が元気なとき

社長の意思を反映した議決権行使を行う。

社長が認知症になった場合

あらかじめ定めた信託契約に従い、受託者が株主として議決権を行使する。

という仕組みを検討できます。

7.自社株信託の大きなメリット

自社株信託の大きなメリットは、

「社長が判断できなくなった後の株式管理を、元気なうちに決めておける」

ことです。

例えば社長が、

「まだ引退するつもりはない。でも、もし認知症になったら会社が止まるのが心配だ。」

と考えている場合。

今すぐ会社を息子に譲るのではなく、

「万が一のときに、会社の株式をどう管理するか」

を先に決めておくという考え方ができます。

8.ただし「自社株信託=会社の経営を息子に任せる」ではない

ここは非常に重要です。

自社株を信託しても、

受託者=代表取締役

になるわけではありません。

例えば、

  • 社長:代表取締役
  • 長男:受託者

という状態も考えられます。

この場合、長男は信託された株式について株主としての権利を行使する立場になりますが、会社の代表取締役になるわけではありません。

したがって、

「株式の管理」と「会社の経営」を分けて考える

ことが必要です。

9.一番危険なのは「何も準備していない」こと

中小企業のオーナー社長の場合、

「会社のことは全部自分が分かっている」

という状態になっていることがあります。

  • 株式は社長が100%
  • 銀行との交渉も社長
  • 主要取引先との関係も社長
  • 会社の重要な判断も社長
  • 後継者はまだ決まっていない

この状態で社長が突然認知症になると、

「誰が会社を動かすのか」

という問題が一気に表面化します。

だからこそ、

元気なうちに「自分が判断できなくなったらどうするか」を考えることが重要です。

10.実際には「3つの問題」を分けて考える

社長の認知症対策では、次の3つを分けて考えると分かりやすいです。

株式

誰が株主として議決権を行使するのか。

代表取締役

社長が経営できなくなった場合、誰が会社を代表するのか。

個人財産

社長個人の不動産・預貯金などを誰が管理するのか。

この3つは別問題です。

例えば、

自社株 → 家族信託

会社経営 → 後継者への役員承継

個人財産 → 家族信託・任意後見・遺言

というように、複数の制度を組み合わせることも考えられます。

11.社長が元気なうちに考えておきたいこと

オーナー社長の方には、ぜひ次の質問を考えていただきたいと思います。

「明日、自分が会社に行けなくなったら、誰が会社を動かしますか?」

そして、

「自分が株主として判断できなくなったら、誰に議決権を託しますか?」

さらに、

「その人に会社を任せる準備はできていますか?」

この3つを考えるだけでも、事業承継の課題がかなり見えてきます。

まとめ

社長が認知症になったからといって、会社が直ちに消滅するわけではありません。

しかし、

「社長個人に集中している権限をどうするのか」

という問題が発生します。

特に、

「社長=代表取締役」

かつ

「社長=大株主」

という中小企業では、

  • 会社経営
  • 株主としての議決権
  • 社長個人の財産管理

を分けて対策することが重要です。

その中で、自社株については、家族信託によって将来の株式管理の仕組みをあらかじめ作っておくという方法があります。

もちろん、自社株信託がすべての会社に適しているわけではありません。

会社の株主構成、定款、取締役の構成、後継者、家族関係などによって、適切な方法は変わります。

だからこそ、

「認知症になってから考える」のではなく、「元気な今、もしものときの会社の姿を考える」

ことが、経営者にとって大切な事業承継対策になります。

「自分が認知症になったら会社はどうなるのだろう?」

「息子に会社を継がせたいけれど、まだ先の話だ」

「自社株について何も対策していない」

という中小企業のオーナー経営者の方は、一度、専門家に相談してみることをおすすめします。

会社を守ることも、経営者としての大切な事業承継対策の一つです。

 

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