先日「家族信託」の紹介を受けました。柔軟な財産管理を家族にお願いできる制度と知りました。私には夫はもういません。子どもとは長く疎遠になっており、身内では私の妹の娘(姪)だけが今も私のことを気にかけてくれています。この制度を利用する場合、姪に財産を託したいですが、姪は「家族」にあたるのでしょうか。
ご相談ありがとうございます。
「家族」信託という名称ですから、家族の範囲やその家族の職業等に何か指定はあるのかとのご質問をよくいただきます。
実は、「家族」には何親等以内の親族というような指定はなく、ご相談の通り、姪っ子さんへ託す(受託者とする)ことももちろん可能です。また、姪っ子さんだけではなく、血縁関係のない方と信託契約を締結することもできます。
未成年者以外であれば「誰でも」受託者となることができます
受託者の資格については、信託法第7条にて「信託は、未成年者を受託者としてすることができない。」とされており、言い換えれば未成年者以外であれば「誰でも」受託者となることができるということになります。よって家族の範囲や職業等の指定はありませんし、また、個人だけではなく法人が受託者となることもできます。
しかし、誰でもといっても、大切な財産を預けるわけですし、受託者に選ばれた人には多くの権限が与えられ、それと共に大きな責任が伴いますので、信頼できる方にお願いすることが大切です。
では、具体的に受託者にはどのような権限や責任、義務が生じるのでしょうか。
家族信託:受託者の権限、責任、義務
受託者の権限は信託法第27条にて
「受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有する。ただし、信託行為によりその権限に制限を加えることを妨げない。」
と規定されています。
少し難しいですが、信託の目的に沿ったことであれば、日常的な財産管理のみならず、例えば、収益物件の運用や不動産の購入、銀行からの借入れも行うことができ、幅広い権限を有することになります。
そのため管理を行う上では以下のような義務が課せられています。
受託者の注意義務(信託法第29条)
受託者は、信託の本旨に従い、善良な管理者の注意を持って信託事務を処理しなければいけません。
忠実義務(信託法第30条)
受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければいけません。
自己執行義務(信託法第28条)
受託者は、委託者からの信頼に基づき、信託財産の管理を託されているため、受託者自らが信託事務を行わなければいけません。
公平義務(信託法第33条)
受益者が2人以上いる場合の信託では、受託者は、受益者のために公平にその職務を行わなければいけません。
分別管理義務(信託法第34条)
受託者は、信託財産と受託者固有の財産、他の信託の信託財産とを分別して管理しなければいけません。
帳簿等の作成等、報告及び保存の義務(信託法第37条)
受託者は、信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、信託財産に係る帳簿等を作成しなければいけません。また毎年1回、その1年間の信託事務を貸借対照表、損益計算書等にまとめ報告しなければならず、委託者又は受益者より請求があった場合はその都度信託事務に関する報告をすることが義務づけられています。
受託者の損失てん補責任等(信託法第40条)
受託者が任務を怠ったことにより損失が生じた場合は、損失のてん補、原状の回復させる責任を負います。
信頼関係だけでなく、適切な信託事務が行えるかどうかもポイント
上記の通り、受託者には柔軟な財産管理を行うために、幅広い権限が与えられていますが、その分課せられている義務も多いです。受託者を誰にするかは悩みどころだと思いますが、信頼関係があることはもちろんのこと、適切な信託事務が行えるかどうかも判断材料の一つになるかと思います。
また、弊所では受託者を個人ではなく法人とした信託契約書作成実績もございます。
受託者をどのようにして決めればいいのかお悩みの方は、是非一度ご相談ください。