弊社では収益不動産の管理をしているのですが、オーナーも高齢の方の割合が高くなってきました。
管理しているアパートの中には、周辺にはまだ更地があり今後も新しいアパートが建ちそうな場所があります。新築のアパートに入居者を取られてしまわないように、今後は大規模修繕が必要となるアパートがいくつかあるのですが、オーナーは年々物忘れが進んでいっている印象を受けます。
日常的な管理は私たちが行っているのですが、修繕の工事請負契約などはオーナーの方が業者と契約してもらわなくてはいけません。それ以外にも、オーナーには様々な契約を結んでいただく場面があります。今はなんとかオーナー自身に契約を結んでもらっていますが、これがあと何年続けられるか……。
オーナーが認知症になってしまい、アパート経営が立ち行かなくなってしまうことは何としても避けたいのですが、何か対策はありますか?
ご相談ありがとうございます。
アパート経営のオーナーは様々な契約をしなければなりませんし、入居者が途切れないよう修繕をし続けたりしなければなりませんので、オーナー様が認知症になってしまった際にアパート経営が滞ってしまわないか不安ですよね。
認知症等で判断能力が低下してしまった場合は、入退去管理・更新の管理や様々な契約行為ができなくなり、アパート経営が立ち行かなくなってしまうことが想定されます。
認知症対策をしなかった場合
このまま何の対策もしないまま認知症になってしまった場合、貸主や管理会社とのやりとりが不可能になり入退去・更新管理や家賃の管理等が難しくなります。
また、建物の修繕を行いたい場合は、リフォーム業者等と工事請負契約を結ぶことになりますが、こちらも契約になりますので認知症になってしまった場合は不可能です。
さらに、修繕等でお借り入れが必要になることもあるかと思いますが、お借り入れが必要になった時に、オーナー様が認知症等で意思判断が困難な状況となってしまっていた場合は、残念ながら融資の契約を進めることはできません。
認知症になってしまっていても、修繕やそれに伴う借り入れをしなければならない状況なのであれば、成年後見制度の利用を検討することになります。
成年後見制度を利用すれば、家庭裁判所が選任した後見人が意思能力の低下した本人に代わり、本人の財産管理や契約行為をすることになりますが、後見人は本人の財産を守ることが目的です。
つまり、リスクを伴う借り入れ等は、家庭裁判所から許可が降りない可能性が考えられます。許可が降りるかどうかは、後見人が選任されたのちに家庭裁判所にお伺いを立ててみないと分かりませんので、後見人が選任されても老朽化したアパートの修繕はできない可能性もあります。
その場合、古くなったアパートには入居者が入らず収入は減り、税金や固定費などの支出ばかりかかり、本人の財産が減っていく一方という困った状況になってしまいます。この状況のまま立ちいかなくなってしまった場合、後見人はこの不動産を売却する手段を取ります。
先代から代々相続していた不動産で、本人や家族に売却の意思がなかったとしてもおかまいなしです。
認知症対策をしなかったことで修繕ができないばかりか、不動産を手放さなければならないという事態にもなりかねません。
家族信託の活用
オーナー様が認知症になったことによるアパート経営が立ち行かなくなるリスクに備えて、不動産管理会社様やオーナー様に是非知っていただきたい制度として、「家族信託」があります。家族信託は、信頼できる方に財産を託し、代わりに管理してもらう制度です。家族信託は、成年後見制度と比較して自由度が高いというメリットがあります。
例えば、支援してくれる息子様がいらっしゃるオーナー様の場合ですと、このような設計はいかがでしょうか?
- 委託者 オーナー様
- 受託者 息子様
- 受益者 オーナー様
- 信託財産 オーナー様が賃貸されている不動産全て・不動産管理用の金銭
オーナー様がお元気なうちに信託契約を結び、不動産や金銭などの財産を息子様へ信託しておきます。
委託者と受益者をオーナー様とすることで、賃貸物件の管理や各種契約に係る部分は息子様にお願いしながら、オーナー様が不動産から得られる利益を受けることができます。
そして、その信託契約の中に、不動産の購入、不動産の建設又は建替え、金融機関からの借り入れ及びそれに伴う担保提供行為、賃貸借契約の承継などについての事項を信託の内容として契約書で定めます。
不動産を信託することで、所有権自体を息子様に移転した形となるため、建て替えが必要になった時にオーナー様が認知症になっていたとしても、受託者である息子様の判断で、金融機関との金銭消費貸借契約や抵当権設定などの手続きをスムーズに進めることが可能となります。
「家族信託」は、オーナーの方が所有する不動産について、相続が発生するまでの間に認知症を発症したとしても、不動産の売却・修繕等の資産活用が確実かつスムーズに実行するために有効な手段です。
不動産経営が立ち行かなくなってしまうリスクに対しては、備えあれば患いなしだと私たちは考えています。法に則した管理を行っていただくためにも、家族信託をご一考ください。