家族信託と認知症

世界一の長寿国である日本。65歳以上の高齢者の割合が人口の28%をこえ、超高齢社会と言われ、今後も高齢者人口は増加傾向が続くと予想されています。高齢化の進展に伴い、避けては通れない疾患として「認知症」が挙げられ、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者になっているとも言われています。

認知症を発症し、適切な判断能力を失ってしまうとお金がおろせなくなるなど、社会的活動が制限されてしまいます。今回は認知症と家族信託について司法書士の関にインタビューしました。

 認知症の症状、問題

20年後には高齢者の約半数が認知症患者になっているなんて話も聞いたことがあります。そもそも認知症になるとどのような症状が現れるのでしょうか。

関)認知症の症状は人それぞれですが、よく見られる症状ですと、だんだんと物忘れが目立つようになり、会話の際には何度も同じ話を繰り返したり、言葉が出てこなくなったりします。意欲も低下し、以前は普通にできていた家事や身の回りのことができなくなります。怒りっぽくなったり、大切なものを誰かに盗まれたと訴えたり(物盗られ妄想)することもあります。

お体が元気な方ですと、徘徊の症状が見られる方もいらっしゃいます。そして症状が進行すると、大切な家族のことも分からなくなってしまいます。

認知症には根本的な治療薬がないそうですね。悲しいですが、長生きしていれば、避けては通れないんですよね。

関)そうですね。ご家族や支援者がその方の認知症の症状とうまく付き合っていくしかないのかもしれません。そして、認知症になり、適切な判断能力がないと判断されると、例えば銀行で預金が下せなくなるというお金の問題も生じてきます。

犯罪に巻き込まれて不正な取引を行わないようにするためではありますが、本人のお金が下せない=他の誰かが負担しなければいけない ということになり、ご家族や支援者の方にとってみればこれが一番困ることなのではないでしょうか。

確かに自分が生活費を持ち出ししないといけないとなると大変です。口座凍結を解除する方法はないのでしょうか。

関)認知症等により、銀行取引の制限を受けた口座を元に戻すには、「成年後見制度(法定後見)」を利用するほか方法はありません。

認知症になってしまったら財産を管理する方法は成年後見制度だけ

その成年後見制度って一体どういう制度なのでしょうか。

関)成年後見制度には法定後見と任意後見の2種類があります。2つの違いの一つに制度利用時の判断能力の有無が挙げられます。認知症等で判断能力が乏しい状態にある人が利用するのが法定後見、判断能力があるうちに将来のために財産管理の契約をするのが任意後見です。まず法定後見について説明します。

成年後見制度は認知症や障がいなどにより、適切な判断ができない方に法定代理人を就け、ご本人様に代わって代理人がいろいろな契約や手続を行う制度です。

法定代理人は家庭裁判所により選任され、選任された法定代理人は成年後見人(判断能力の程度によって、保佐人、補助人)とよばれます。成年後見人は家庭裁判所の監督を受けながら、ご本人様の財産管理や各種契約を行うことができますので、認知症等で取引が制限された銀行口座を管理、解約したい場合はこの制度を利用することになります。

成年後見制度の利用者ってどのくらいいるのでしょうか。

関)日本全国で約25万人、新潟県内では約5千人の方が利用をしております。利用者は年々増えてはいますが、認知症患者数を思うと、あまり選ばれてはいません。

成年後見制度が普及していない理由はなんでしょうか

関)いくつか理由はありますが

①手間がかかる上、負担が大きい

制度を利用するには家庭裁判所に申立てをすることになるのですが、提出しなければならない書類が多く、そして複雑です。また、成年後見人が選任された後も家庭裁判所へは定期的に報告書の提出が必要になります。

②報酬がかかる

成年後見人は家庭裁判所が選任するため、希望した方が成年後見人に就任できるとは限りません。成年後見人にはご本人様の親族も就任することができますが、専門職と呼ばれる弁護士、司法書士、社会福祉士等が就任することがほとんどです。

専門職が成年後見人となった場合、報酬を支払うことになります。報酬はご本人の財産から支出しますが、その報酬額はご本人様のお持ちの財産額によって異なり、月2万円~6万円となります。現在の成年後見制度は判断能力が回復しなければ途中でやめる事ができず、ご本人様がお亡くなりになるまで利用し続けなければ行けません。

そのため、例えば成年後見制度を10年利用し、報酬額が月4万円だった場合、10年で480万円、月6万円なら720万円を成年後見人に支払うことになります。利用する期間が長ければもっと報酬として支払う金額が多くなり、せっかくの財産なのにご自身のためではなく成年後見人への報酬として使わなければいけません。

③柔軟な財産管理ができない

成年後見制度は家庭裁判所の監督を受けながら、本人の財産を保護する制度となりますので、財産が減るリスクのある行為は認められず、投資、運用、相続税対策をするといったことはできません。また、例えご本人様の生活のための支出であっても、ご本人の財産状況を鑑みて不相応な支出とみなされれば、その支出が認められないケースもあります。

反対に成年後見制度のいいところってなんでしょうか。

関)これまで成年後見制度のデメリットをあげましたが、近くに支援してくれる親族がいない方、身寄りのない方にとってみれば非常にいい制度だと思います。家庭裁判所の監督を受けることはデメリットともとれますが、常に監視されているわけですから不正を行うことはできませんし、財産を守りながら適切な管理を受けることはメリットととらえることもできます。

また、成年後見人には「身上監護」を行うことも認められています。身上監護は生活や介護、療養などに関する法律行為を行うことをいい、例えば、施設入所や入院にあたっての契約、介護保険の申請などの権限も正式に与えられています。

認知症になる前にできること

認知症になった後に口座が凍結したら成年後見制度を利用するしかないことは分かりました。では認知症になる前だったら何かできる対策はあるのでしょうか。

関)できる対策としては任意後見制度と家族信託の二つの方法があります。

どちらも認知症になる前、判断能力がある時に行う契約になります。

任意後見制度は認知症になった時に備え、あらかじめ財産管理をお願いする任意後見人を自分で選び、その方と任意後見契約を締結し、認知症になったら支援を受ける事ができる制度です。

先ほどご説明した法定後見とは異なり、任意後見人を自分で選ぶ事ができる点が魅力の一つです。任意後見は判断能力が落ちてきた時に家庭裁判所に申立てをすることで開始します。任意後見の開始に伴い、家庭裁判所は任意後見監督人を選任し、任意後見人が適正に職務を行なっているか任意後見監督人に監督してもらいながら財産管理を行います。

任意後見監督人はその事務について家庭裁判所に報告しなければならず、法定後見同様、家庭裁判所の監督を受けることになりますし、任意後見監督人には報酬が発生します。

そして家族信託は信頼できるご家族様と信託契約を締結し、財産管理をお願いする制度です。こちらはご家族間での契約事になるので、成年後見とは異なり、家庭裁判所の監督を受けることはないので、自由に財産を管理することができます。

信託の目的に反していなければ、不動産の売却、購入や、融資を受けることもできます。また、財産管理をお願いした受託者に報酬を支払う契約にすることもできますが、無報酬で利用されている事がほとんどです。

家族信託についてもっと教えてください

関)信託とは、財産を持っている委託者が、遺言や信託契約によって、信頼できる個人や法人である受託者に対して、不動産・現金等の財産を託し、一定の目的に沿って、受託者が受益者のために管理・処分を行うことです。

家族信託は成年後見制度に代わる財産管理の方法としてだけではなく、遺言に代わる機能も兼ね備えております。家族信託なら、遺言では実現できない、二次相続以降の承継者まで指定する事もできます。

家族信託には、契約で定めた帰属権利者に信託した財産を帰属させるという機能があり、この機能を活用し、家族信託を遺言書の代わりとする方もいます。しかし、遺言書では”遺言者が亡くなったときAに渡す”(一次相続)までしか指定することができません。

一方で家族信託には「受益者連続」という機能があり、”当初受益者が亡くなったら次はA、Aが亡くなったらB、Bが亡くなったら…”と二次相続以降の承継先まで指定することができます。この機能を活用することで、円滑な事業承継が可能になります。

また、この「受益者連続」機能を活用し、再婚し後妻と前妻の子が相続権を持つようなケースや、子どもに障がいがあり自分の亡き後、子どもの財産管理を誰かに頼みたいといったケースにも応用することができます。

家族信託をお願いした場合、費用はいくらでしょうか。

関)信託契約書の作成に165,000円(税込)と、その他、信託した財産額に応じて契約内容のコンサルティング報酬として以下の手数料をいただいております。

信託財産の評価額 手数料(税込)
1億円以下の場合 1.1%(3,000万円以下の場合は、最低額33万円)
1億円超3億円以下の場合 (0.5%+50万円)×1.1
3億円超5億円以下の場合 (0.3%+110万円)×1.1
5億円超10億円以下の場合 (0.2%+160万円)×1.1
10億円超の場合 (0.1%+260万円)×1.1

関)なお、信託財産に不動産が含まれている場合は信託登記が必要となり、こちらの登記費用が11万円(税込)~となっております。

家族信託を専門家に依頼した場合、初期費用はかなりかかりますが、その後は基本的に無報酬で運用されますので、成年後見制度を利用するよりもお得に財産管理ができることがほとんどです。

家族信託と成年後見、どちらを選ぶべきか

関)どちらの制度にもメリット、デメリットがあります。また、家族信託は契約になりますので、判断能力がある、お元気なときにしかすることができませんので、お早目の契約をおすすめします。

当事務所は家族信託、成年後見どちらの業務も携わっております。家族信託については新潟の公証人から当事務所の作成数が1番多いとおっしゃっていただいたこともありますし、成年後見は現在約140名の方の後見人に就任し、お手伝いをさせていただいております。様々な経験からアドバイスできることがあるかと思いますので、なんでもご相談ください。

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