私は妻と二人で生活しています。私たちには子供がいないため、遺言書を書こうか迷っているのですが、私の思いが遺言書で実現できるのかどうか分かりません。どうしたらいいものか専門家の意見が聞きたかったので、相談しに来ました。
私の希望は二つあります。
一つ目の希望は、私が亡くなった後も妻が安心して暮らせることです。妻は最近認知症が進行してきましたが、持病や治療中の病気もなくとても元気です。反対に私は、認知機能は衰えてはいませんが、数年前に癌を患ったこともあり、正直、あまり先が長くないのではないかと感じています。長年連れ添った妻には、私が先に亡くなった後も何不自由なく生活してほしいので、全財産は妻に相続させたいです。また、妻は、自宅で過ごしたいという思いが強いので、私亡き後もできるだけ今の家で生活させてあげたいと思っています。
二つ目の希望は、不動産は最終的には自分の親族に承継してもらうことです。私が所有している不動産は先祖代々受け継いできたもので、亡き父も不動産は一族の資産として守っていってほしいとよく私に言っていましたし、妻側の親族とは疎遠なので、先祖代々守り抜いてきた資産が妻の親族に渡ってほしくないという思いもあります。私が亡くなった後は、やはり妻に全財産相続させたいのですが、妻が亡くなった後は私たちの面倒をよくみてくれている甥っ子(私の弟の息子)に承継させ、一族の資産として守っていってほしいと思っています。
この二つの内容を遺言書に書こうと思っているのですが、私の思いは実現できますか?
ご相談ありがとうございます。
ご自身が亡くなった後の財産の行き先を指定する方法の一つとして、遺言書を作成するという方法があります。
遺言書でSさんの希望を叶えられれば良かったのですが、残念ながら遺言書では、Sさんの二つの希望を叶えることはできません。
ですが、遺言ではなく、「家族信託」という方法なら、Sさんの思いを実現することができます!
遺言と家族信託の違い
遺言書で財産の行き先を指定することができますが、指定できるのは一世代まで(自分の財産を次に誰に渡すかのみ)です。つまり、Sさんの場合は「奥様に全て相続させる」というところまでしか書くことができません。奥様も遺言書が書ける状態なら良かったのですが、お話を聞いた限り難しそうですね。
仮に遺言が書ける状態であったとしても、遺言は奥様の意思次第ですので、作成した後知らない間に書き替えられてしまったり、Sさんが亡くなった後に撤回されてしまうことも考えられますので、確実に甥御さんに財産が渡るという保証はありません。
家族信託とは、信頼できる方に財産を託し、管理してもらう制度ですが、遺言のような機能を持たせることもできます。そして、信託の設計次第では、遺言では指定することができない二次相続以降まで指定することができます。
受益者連続型の信託契約
Sさんの場合ですと、このような信託契約の設計はいかがでしょうか。
委託者:Sさん
受託者:甥御さん
当初受益者:Sさん
第二受益者:奥様(Sさん亡き後)
帰属権利者:甥御さん
信託財産:不動産及び預貯金大半
信託の期間:信託契約締結した時〜Sさん及び奥様が亡くなるまで
遺言は財産の行き先を指定するだけですので、全財産を奥様に相続させることができても、相続した奥様自身が認知症になってしまっていると自分で管理し消費することができず、奥様に成年後見人を就けなければならなくなってしまうかもしれません。
ですが、家族信託(受益者連続型の信託契約)を活用することで、Sさん亡き後、信託財産は奥様に引き継がれ、かつ、その後の財産管理も甥御さんが担ってくれますので、奥様の余生も安心ですね。
また、奥様が亡くなった後、残った信託財産は甥御さんへ引き継がれます。このように、家族信託なら、奥様の遺言がなくても、『Sさん→奥様→甥御さん』という財産の流れを作ることができますし、先祖代々受け継いできた不動産は確実にSさんのご親族へ承継されることになりますので安心です。
遺言では、Sさんの思いを実現することはできませんが、家族信託ならSさんが望んだとおりの資産承継を円滑に実現させることができますし、奥様の生活も安心です。
Sさんと奥様の人生に大きく影響することですので、甥御さんも交えてじっくりご検討いただければと思います。