私は夫と息子と一緒に暮らしておりました。最近、夫が亡くなり、相続手続きをしました。
次はきっと私が亡くなり、息子が全て相続することになると思うのですが、その次に息子が亡くなったとき、息子は結婚をしていませんし、子供もおりませんから、相続人が誰もいません。
その場合、息子の財産は一体どうなるのでしょうか。また、息子には知的障がいがあり日中は作業所に通っています。私が亡くなった後、息子の生活も心配です。何かいい方法はないでしょうか。
ご相談ありがとうございます。
まず、相続人が誰もいない場合の遺産の行く先についてですね。
結論から申し上げれば相続人が誰もいない場合、相続財産は国庫に帰属します。
息子さんの場合、奥様もお子様もいらっしゃらず、ご両親(及び祖父母)も亡くなっていたら、法定相続人が誰もいないことになります。今回の息子さんのように法定相続人が誰もいない場合の他、また、法定相続人がいたとしても全員相続放棄をした場合等も含め、相続財産を相続する人がいない状態のことを「相続人不存在」と言います。
相続人不存在となった場合、相続財産を引き継ぐ先がなく、宙に浮いた状態になってしまうため、相続財産清算人(相続財産管理人)という相続財産を管理する人を就任させることになります。相続財産清算人を就任させるには家庭裁判所に申立を行います。相続財産清算人の就任後、その相続財産は、特別縁故者がいれば特別縁故者に、特別縁故者がいなければ、国庫に帰属させることになります。
せっかくの財産、しかも息子さんの財産の大方はお客様(ご両親)が築いた財産だと思います。それが国庫に帰属するとなるといい気がしないですよね。仕方がないと諦めるもよいですが、後程お伝えする家族信託をうまく活用すれば国庫帰属を防ぐことができます。
親なき後対策としての家族信託
そして、もう一つのご心配がお客様が亡くなった後の息子様の生活…ということですね。
障がいのあるお子様がいるご家庭のほとんどはご両親が一緒に住み、サポートをしていらっしゃるのではないでしょうか。ご両親が元気なうちは問題ないと思いますが、ご両親も歳を重ねていきますと、だんだんとお子様のサポートをし続けることが難しくなるでしょうし、そもそもご自身も支援が必要な状態になってくると思います。
お客様での支援が限界を迎えれば何かしらの制度を利用することも検討することになるかと思いますが、障がいのある方を支援する制度としては「成年後見制度」という制度がございます。
家庭裁判所がご本人様に適切な後見人(法定代理人)を選任し、選任された後見人が財産管理や身上監護を行う制度になるのですが、この制度では必ずしも希望する後見人が就任するとは限りませんし、ご本人様を保護する制度になるため、融通の利かない部分が多くある制度になります。
最近はそれに代わる、財産管理の制度として「家族信託」の認知度が上がってきました。
家族信託を活用すれば、成年後見制度では実現しない、相続財産が国庫に帰属することも防げますし、障がいのあるお子様の将来も守ることができると思います。
家族信託とは
家族信託とは簡単に言うと、認知症等で自分の財産を自分で管理できなくなってしまう事態に備えて、家族などに財産を管理・処分する権限を与えておく仕組みのことです。成年後見制度とは異なり、その運用の自由度が特徴です。
家族に財産を託すことになりますが、この家族には〇親等内の親族といったように決まりがあるわけではありませんし、個人でも法人でも信頼できる方であれば誰でも大丈夫です。例えば、お客様と好意にしている姪っ子さんがいたとします。日頃より連絡を取り合い、息子さんのことも理解し、フォローしてくれる姪っ子さんだとしたら、その姪っ子さんにお客様と息子さんの面倒をみてもらえたら安心ですよね。
もちろん、いろいろと姪っ子さんにも協力してもらわないといけないですが、仮に姪っ子さんにお客様の財産を託す(家族信託する)となると
- 姪っ子さんがお客様と息子さんの財産管理をすることができる
- 家族信託した財産は最終的に帰属権利者が引き継ぐことができる
そのため国庫帰属を防げるようになります。
少し専門的な言葉になりますが、家族信託は契約なので、このような内容の契約を締結します。
- 委託者(財産を預かる人):お客様
- 受託者(財産を預かり、管理する人):姪
- 当初受益者(信託財産から経済的利益を受け取る人):お客様
- 第二受益者:息子
- 帰属権利者(信託終了時の信託財産の行く先):姪
- 信託終了事由:お客様と息子の死亡
上記内容を簡単にまとめると、お客様の財産を姪っ子さんが預かり、お客様と息子さんの生活等のために財産を使用し、お客様と息子さんが亡くなったら残った財産は姪っ子さんが引き継ぐということになります。
受託者である姪っ子さんには沢山の権限が与えられ、日常的な財産管理のみならず、例えば、お客様名義のご自宅を信託した場合、お客様ではなく姪っ子さんが代わりに売却することもできるようになります。
また、帰属権利者と呼ばれる家族信託終了時に財産を引き継ぐ人を姪っ子さんにすることで、お客様の財産をお客様と息子さんのために使った後、最終的に姪っ子さんに引き継がせることができます。残った財産は全て帰属権利者にいくわけですから、その分お二人のために真心を持って務めてもらわなければいけません。
家族信託をしていなければ、認知症になった後は、ご預金を下すことも、不動産を売却することもできなくなってしまいます。先々のことを考え、ご自身と息子さんの生活を守る為にも何かしらの対策を検討することで安心できる老後を過ごすことができるのではないでしょうか。