私には障がいのある娘がいます。一人娘で長年主人とともに面倒を見てきましたが、数年前に主人を亡くし、それからは私一人で面倒を見てきました。しかし私も歳を重ね、私自身も誰かに面倒を見てもらわなければいけないようになってきました。
自分のこともままならなくなってきましたが、何よりも心配なのは娘のことです。姪に相談したら、家族信託という制度があることを教えてもらいました。信頼している人に私や娘のことを支援してもらえる制度なんですよね?
姪は「おばちゃん、おばちゃん」といつも声を掛けてくれ、娘のこともよく理解してくれています。生まれたときからずっと近くに住んでいて、信頼しています。娘のこと、姪にお願いしたいのですが、どうしたらいいのでしょうか。
ご相談ありがとうございます。
いわゆる「親なきあと問題」ですね。お悩みの方沢山いらっしゃいます。
これまでは「成年後見制度」を検討される方が多かったですが、制約もある制度でお客様の家族構成やご関係、その他ご事情によってはお勧めできない場合も多かったです。
最近はそれに代わる制度として「家族信託」の認知度が上がってきました。
お客様の場合、家族信託を利用されると安心できる老後を過ごせると思いますよ。
家族信託をおすすめする理由は2つあります。
1つ目は、家族信託でしか実現できない二次相続以降の財産の承継先を指定することができる点です。
実はお客様のお話をお伺いして一つ気になったことがあります。
それはお客様が亡くなって、娘さんが遺産を相続した後、娘さんが亡くなった場合、相続人が誰もいなくなって、娘さんの財産が国に帰属されてしまうことです。せっかく皆様方が築き上げた財産が国に帰属してしまうのはあんまりですよね。
例えば娘さんが遺言書を作成して、引継ぎ先を指定していれば国に帰属されることはないですが、障がいがあって支援が必要な状態ですと、遺言書を作成することは難しいかと思います。
また、お客様が遺言書にて娘さんが亡くなった後の財産の帰属先を記載してもそれは実現できません。しかし、家族信託であれば、お客様のご意思で娘さんが亡くなった後の財産の承継先を指定することができます。お客様の場合、これから支援をお願いする姪っ子さんを財産の承継先に指定することで、円満な家族信託の運営ができると思います。
2つ目は、娘さんのことだけでなく、お客様自身の財産管理もお願いできる点です。
少し申し上げにくいのですが、これからもっとお歳を重ねていくと物忘れがでてきて、認知症と言われるような状態になることは避けては通れないと思います。認知症等で判断能力が低下した状態になると金融機関でお金の引出しができなくなったり、各種契約行為も意思が確認できないため行うことができなくなります。
認知症対策を何もしなければ、せっかくの財産が塩漬けになってしまう可能性があるということです。
元気なうちに認知症対策を行わなかった場合、塩漬けになった財産を動かすためには成年後見制度を利用するしかありません。
成年後見制度は司法書士や弁護士等の専門職(要件を満たした場合のみ家族が就任することも可能)が法定代理人となり、財産管理を行う制度です。この制度は家庭裁判所での監督を受けながら管理をしなければならず、お客様の希望通りの財産管理は望めません。
また、専門職が成年後見人となった場合は報酬が発生し、お亡くなりになるまで報酬の支払いは続くので利用をためらう方も多くいらっしゃいます。
一方、家族信託は信頼関係に基づき家族間で行う財産管理になりますので、お客様のご意思が反映された柔軟な財産管理が実現できますし、報酬も発生しません。(契約内容によって報酬を支払うことも可能)
財産管理の方法をはじめ、家族信託契約の内容は自由に定めることができる点が家族信託の長所ですので、例えば、お客様だけではなく、その次の世代、その次の次の世代、、、とずっと信頼できる人に財産管理をお願いすることもできます。今回の場合はお客様、そしてその次は娘さんの財産管理ができるということです。
姪っ子さんにお二人の財産管理をお願いすることは心苦しいと思うかもしれませんが、1つ目に挙げたように、家族信託では巡り巡ってお客様の財産を相続人ではない姪っ子さんに引き継ぐことが可能ですから、そのような契約内容にすれば管理を行う姪っ子さんの負担も少しは軽くなるのではないでしょうか。
家族信託をご利用いただくことでお客様の不安は解消できるかと思います。
お客様、そして娘さんの人生に大きく影響することですからじっくりご検討いただきたいのですが、家族信託は認知症になってからでは契約を行うことができません。
また、姪っ子さん同意も必要になりますので、まずは姪っ子さんとお話をされてみてください。難しい制度ですので、詳しいご説明はまた私からもさせていただきますよ。