認知症対策やご自身が亡くなられた後の財産の行き先について、お考えになる方も少なくないのではないでしょうか。
自分の指定した人に遺産を承継する手段としては、遺言と家族信託の二つの手段が考えられますが、それぞれの性質は異なります。今回は、生前対策の中の家族信託と遺言について、司法書士の関にインタビューしました。
家族信託と遺言の違いは何ですか?
関)効力発生時期に違いがあります。遺言書は、亡くなった後の財産の行先について指定しておくものです。生存中は何の効力も生じませんので、生前の財産管理については当然のことながら何ら効力が及ぶものではありませんし、認知症対策として役に立つものでもありません。
一方、家族信託は、自分の財産を自分で管理できなくなってしまう事態に備えて、家族などに財産を管理・処分する権限を与えておく制度です。遺言は遺言者(作成する人)の単独行為ですが、家族信託は財産を預ける人と財産を預かり管理する人との契約になります。
「遺言」が生前中は効力が発生しないのに対し、認知症対策として生前から財産管理を担うのが「家族信託」です。
家族信託にも遺言のような機能はありますか?
関)家族信託とは、信頼できる方に財産を託し、管理してもらう制度ですが、遺言のような機能を持たせることもできます。
そして、信託の設計次第では、遺言では指定することができない二次相続以降(次の承継者)まで指定することができるという点が、遺言とは異なります。
遺言書で財産の行き先を指定することができますが、指定できるのは一世代まで(自分の財産を次に誰に渡すかのみ)です。例えば、お子さんがいらっしゃらないご夫婦で、ご自身(Xさんとします)が亡くなられた後、いったんは自分の配偶者(Yさん)に財産を引き継がせたいが、配偶者も亡くなった後は、面倒を見てくれている自分の甥(Zさん)に財産を引き継がせたいという思いをお持ちの方がいらっしゃったとします。
遺言で指定できるのは、「配偶者(Yさん)に財産を渡す」ところまでです。
その配偶者の方にも「自分が死んだら遺産はZさんに」という遺言を書いてもらえればいいのかもしれませんが、作成した後知らない間に書き替えられてしまったり、Xさんが亡くなった後に撤回されてしまうことも考えられますので、確実に自分が望んだ相手に財産が渡るという保証はありません。
ですが、家族信託(受益者連続型の信託契約)を活用すると、Yさんの遺言がなくても、『Xさん→Yさん→Zさん』という財産の流れを作ることができます。
財産管理機能と遺言機能を兼ね備えているのは安心ですね。家族信託で遺言機能を設けていれば万全ですか?
関)信託には遺言のような機能もあり、二次相続以降まで指定することができるという点については遺言より優れているということをお伝えさせていただきましたが、家族信託さえ契約していれば安心とは必ずしも言い切れません。
家族信託で財産の行先を指定できるのは、信託した財産のみになります。例えば、現在3,000万円の預貯金のお持ちのXさんが信託契約をし、1,000万円を信託したとします。最終的には預貯金全てを相続人ではないYさんに渡したいという希望があった時に、信託のみですと信託財産(現段階では1,000万円)はYさんに引き継がれますが、信託していない2,000万円については遺産分割協議の対象となり、Yさんに引き継がれることはなくなってしまいます。
お持ちの資産全てを信託される方は、信託契約のみで問題ありませんが、全てを信託しない方や、いったん全て信託しても年金やその他の収入で信託していない預貯金が増えていく方などは、別途で遺言書を作成することを検討してみてはいかがでしょうか。
家族信託と遺言、どちらを選んだらいいでしょうか?
関)遺言書は、亡くなった後の財産の行先について指定しておく制度、そして、家族信託は、自分の財産を家族などに託して管理してもらう制度です。家族信託は遺言のような機能を一部有してはいますが、全く別の制度です。
財産の引継ぎ先だけ決めておきたい方は遺言書だけで十分でしょうし、財産の引継ぎ先を次の次の世代まで決めておきたい、かつ生前の財産管理も担える権限を与えておきたいという方の場合は、家族信託がおすすめです。
それぞれのご事情によって、選ぶ選択も異なってくるかと思います。
遺言も家族信託もどちらも弊所でご相談可能ですので、生前対策でお悩みの方は一度ご相談ください。