
任意後見契約をすでに発動していますが、思うように手続きが進みません。家族信託で解決できますか?
母は認知症が進行したため、すでに任意後見契約が発動しており、私が任意後見人です。
任意後見の契約をしたときは公証役場で行いました。その時の公証人から「代表的な代理行為目録」と説明を受け、そのまま設定しました。
ところが実務を進める中で、母が保有している非上場株式について、
- 議決権の行使
- 株式の処分
- 会社の解散に関わる意思決定
といった権限が代理行為目録に記載されていないことが判明しました。
その結果、会社の解散手続きが進められず、完全に行き詰まっています。
任意後見は発動後に目録の変更ができないと聞き、法定後見に切り替えるしかない状況です。
このようなケースでも、家族信託を使えば解決できたのでしょうか。
また、今からできる対策はありますか。

ご相談ありがとうございます。
結論から申し上げますと、任意後見がすでに発動している場合、家族信託を新たに設定することは原則としてできません。
家族信託は、委託者(財産を託す方)に十分な判断能力があることが前提となる制度です。
そのため、認知症等により任意後見が発動している状況では、信託契約そのものが無効となる可能性が高く、実務上は選択できません。
また、任意後見契約についてもご指摘のとおり、
- 発動後は代理行為目録の追加・変更は不可
- 目録に記載のない行為は後見人でも代理できない
という厳格な制限があります。
このため、現在の状況を打開する手段としては、家庭裁判所に申立てを行い、法定後見(成年後見)へ移行することが現実的な対応となります。
なぜ「任意後見だけ」では足りず、「家族信託との併用」が重要なのか
今回のケースは、任意後見制度の典型的な落とし穴といえます。
一般的な代理行為目録は、事業・株式を想定していません
任意後見契約で使用される代理行為目録は、
- 預貯金の管理
- 不動産の保存行為
- 日常的な契約行為
といった「生活支援」を中心に作られています。
そのため、
- 非上場株式
- 会社経営・清算
- 事業に関わる意思決定
といった分野は、明示的に記載しなければ権限が及びません。
発動後に修正できないのが任意後見の最大の弱点
任意後見は「将来に備える制度」ですが、一度発動すると、
- 契約内容は固定
- 柔軟な対応ができない
という構造的な制約があります。
結果として、
「事前に備えたはずなのに、実務が止まる」
という事態が起こります。
家族信託であれば、何が違ったのか
もし判断能力がある段階で、非上場株式を家族信託の信託財産にしていれば、
- 受託者(家族)が議決権を行使できる
- 株式の処分・会社解散の判断が可能
- 後見制度に頼らずに継続的な管理ができる
といった対応が可能でした。
つまり今回の問題は、
「任意後見が悪い」のではなく、「任意後見だけで設計してしまった」ことに原因があります。
実務では「役割分担」で考えることが重要
実務上は、次のような整理が有効です。
- 任意後見:
身上監護、介護・医療・日常生活の法律行為 - 家族信託:
不動産、預貯金、株式、事業承継を含む財産管理
この役割分担を判断能力があるうちに設計することが、後悔しない最大のポイントです。
まとめ
- 任意後見は発動後に修正できない
- 事業や非上場株式は特に要注意
- 家族信託は認知症になってしまった「後から」では使えない
- 両制度は併用を検討することが得策の場合がある
任意後見契約を検討されている方は、
「一般的なひな型で足りるか」
「家族信託と組み合わせる必要はないか」
を、契約前に必ず専門家と確認することをおすすめします。




