私は株式会社を経営しております。私の父が創業した会社ですが、10年前に父から引き継ぎ、今年で創業40年を迎えたところです。
まだ私も元気ですし、代替わりについて考えてはいなかったのですが、先日、私と同じく会社を経営している同級生が事故に遭い意識不明となってしまい、株主総会を行うことができなかったという話を聞き、私自身もいつ何が起こるか分からない身であることを実感しました。
不測の事態から会社を守る手立てとして何かいい方法はあるのでしょうか。やはり今のうちから会社を息子に引き継ぐべきなのでしょうか。
ご相談ありがとうございます。
事業経営オーナーが病気や事故などで意思判断能力を失ってしまった場合、株主総会が開催できなかったり、会社としての契約行為ができなかったりします。
そのような事態を想定して何かしらの手立てをしておかなければ、会社経営は滞ったままになってしまい、最悪の場合、倒産…なんてことも考えられます。
これまでの事業承継策としては、後継者に株式を譲渡するしか方法がありませんでした。
株式の贈与では株式の評価額が贈与税の基礎控除額110万円以上の場合は贈与税が発生しますし、会社の経営権を元気な内から次世代に引き継ぐことに抵抗のある方も多いです。
しかし「家族信託」という制度を活用すれば、贈与しなくても会社経営を次世代に引き継ぐことができ、また、認知症等で意思判断能力を失ったとしても、これまで通りの会社運営を続けることができます。
家族信託とは?
では一体、家族信託とはどのような制度なのでしょうか。
家族信託とは信頼できる家族に財産管理をお願いする制度となります。
そして家族信託には委託者・受託者・受益者・信託財産という言葉がでてきます。
- 委託者は財産管理をお願いする人
- 受託者は委託者から託された財産の管理を行う人
- 受益者は信託した財産から生じる利益を受ける人
- 信託財産は受託者に託した財産
のことを言います。
ちなみに家族信託は管理の権限を受託者に与えるだけですので、財産の所有者が変わるわけではありません。
より良い信託設計
お客様のケースに委託者・受託者・受益者・信託財産をあてはめてみると
委託者はお客様となりますね。そして受託者は息子様、受益者はお客様、信託財産を自社株としてみます。
こうすることで、お客様が所有している株式をあらかじめ息子さんに託し、それによって生じた利益をお客様が受け取ることができる、ということになります。
このような家族信託設計でも問題ないかと思いますが、もし息子さんが先に亡くなってしまった場合は、そこで家族信託が終了となってしまう場合もございます。せっかく家族信託をするのですから、会社を未来永劫、何代にも続く事業承継を実現したいのならばもっといい方法がございます。
それは受託者をご家族の方ではなく、法人とする方法です。
受託者が法人のときの注意点
実務上では一般社団法人を設立して運用することがほとんどですが、一般社団法人に限らず、株式会社、有限会社、合同会社などでも問題ありません。しかし信託業法に抵触することを避けるため定款を工夫することが必要となります。
受託者を法人(一般社団法人)とすることで、受託者の死亡、受託者の高齢化による信託の運営が滞るリスクがなくなりますし、会社の運営について、特定の個人ではなく、社員の合意で意思決定できるようになります。
受託者死亡による信託終了のリスクを避けるため、第二受託者を設定しておくことも考えられますが、受託者が変更となった場合には、変更した旨の不動産登記が必要になったり、金銭の信託をし、信託専用口座を開設していた場合には凍結のリスクや、名義変更の手間が発生したりします。
その点法人には死亡という概念がないので、その心配はございません。
受託者の任務終了事由には死亡の他、後見開始、保佐開始の審判を受けた時も終了となりますが、こちらの心配も法人受託者であれば不要ですね。
受託者を法人とすることで、受託者側のリスクを減らし、長期にわたる安定的な家族信託を行うことが可能です。収益不動産がある、代々続く家業を守りたいといった場合には、受託者を個人ではなく、法人とすることもご一考いただけるとよいかと思います。