認知症は、高齢化社会の日本で急速に増加している問題の一つです。
この症状が進行すると、自分自身の財産管理や処分が難しくなる可能性が高まります。
特に、認知症の初期症状が出てから判断能力が低下するまでの期間は非常に短い場合もあり、症状が生じる前に適切な対策を講じなければ、後々大きな問題に発展することも少なくありません。
そこで注目されるのが『家族信託』という制度です。
家族信託は、認知症になる前、または初期段階で、自分の財産を信頼できる家族や第三者に託すことで、将来的な財産管理をスムーズに行うための仕組みです。
この記事では、認知症による財産管理の問題と、その対策として家族信託がどのように役立つのかを詳しく解説します。
1 【認知症対策】自分で財産管理や処分ができなくなる前に
認知症の進行は症状によって個人差があり、突然判断能力が失われることもあれば、徐々に低下していくケースもあります。
そのため、認知症の症状が出始める前段階で、しっかりとした対策を講じる必要があります。特に、財産管理や処分に関する判断能力が低下すると、その後の生活にも大きな支障をきたしてしまうからです。
ここでは、認知症の症状についての基本的な知識と、症状が出た際にどのような対策が必要なのかについて解説します。
1-1 認知症は症状によって影響が異なる
認知症には多様な症状があり、その影響は人それぞれ異なります。
一般的には、物忘れが始まるというイメージが強いですが、実際にはそれだけではありません。発症直後に判断能力が完全に失われるケースも少なくありません。
このような状況を考慮すると、認知症対策は早めに行うべきです。
認知症にはアルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭葉変性症など、いくつかの種類があります。それぞれの症状や進行速度は異なるため、一概に「認知症=物忘れ」とは言えません。
例えば、認知症でもっとも多い『アルツハイマー型』では記憶障害が主な症状ですが、前頭側頭葉変性症では人格や行動に変化が出ることが多いです。
物忘れが徐々に始まるケースもありますが、突然、判断能力が失われるケースも存在します。
特に、脳血管性認知症では、脳梗塞や脳出血によって発症直後に症状が出ることがあります。このような状況では、事前の対策が非常に重要となります。
1-2 認知症のリスクは年齢とともに高くなる傾向が
統計によれば、65歳以上で約16%、80歳代後半では男性の35%、女性の44%が認知症であるとされています。
認知症の発症は非常に高い割合であることが知られており、さらに高齢になるほどそのリスクは増加すると言われています。
近年の研究によれば、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると考えられています。このような状況を考慮すると、認知症はもはや他人事ではありません。
1-3 アルツハイマー型認知症は徐々に記憶や判断能力の低下が
アルツハイマー型認知症では、記憶や判断能力に関わる非常に重要な部位である、脳の「海馬」と呼ばれる部分が委縮します。
この認知症は徐々に進行するため、初期段階では軽度の物忘れから始まりますが、次第に判断能力が大幅に低下していきます。
現在、さまざまな薬剤が開発されているものの、症状の進行を遅らせる目的で活用されており、完全に改善できる治療方法はありません。
そのため、判断能力が低下する前に財産管理などに着手することが重要です。
1-4 脳血管性認知症では発症直後に判断能力がなくなることも
認知症の発症直後に機能が失われるケースも少なくありません。
脳血管性認知症は、脳出血や脳梗塞によって脳の一部が破損する疾患です。この症状によって、判断能力や身体能力が急激に失われることがあります。
特に、高齢者の発症においては、発症直後に判断能力が完全に失われるケースが少なくありません。高齢になると、発症リスクが高まるため、特に注意が必要です。
以上のように、認知症の種類によっては発症直後に判断能力や身体能力が失われてしまうこともあります。そのため、高齢になる前から、早めに具体的な対策を考える必要があります。
1-5 判断能力がある間に対策を
認知症の進行は予測が難しく、突然機能が失われる可能性もあります。そのような状況を考慮すると、早めに財産管理の対策を考えておく必要があります。
特に、保有する不動産や預貯金などの財産は、自分の判断で管理できなくなった場合、その処理が非常に困難になります。
認知症の症状が出始めたら、判断能力が急激に低下していく可能性が高いです。そのため、早めに財産管理の対策を検討し、具体的な行動に移すことが重要です。
不動産や預貯金は、その管理や処分には多くの手続きが必要です。認知症によって判断能力が低下した場合、これらの手続きは非常に困難になってしまいます。
不動産の売却や預貯金の引き出しには、多くの書類や証明が必要で、それを自分一人で行うことはほぼ不可能になります。
また、本人だけでなく、配偶者や子供もその影響を受けてしまいます。
例えば、銀行口座からの預金引き出しは、本人が認知症で判断能力を失った場合、配偶者や子供でも簡単には行えません。
しかし、家族信託を利用しておくことで、自分が判断能力を失った後も、信頼できる家族が財産を適切に管理できるようになります。
2 認知症リスクによる財産管理の対策なら早めに『家族信託』の利用を
認知症が進行すると、財産管理が困難になる可能性が高くなります。
特に、不動産や預貯金などの大きな財産を持っている場合、その管理や処分は一層複雑になるでしょう。
さらに、認知症になると、本人だけでなく家族もその影響を受け、財産管理がさらに難しくなる可能性があります。
このような認知症リスクに備えて、財産管理の対策を考える場合、『家族信託』が有効な手段とされています。
ここでは、認知症リスクによる財産管理の問題と、その対策として家族信託がどのように役立つのかについて、詳しく解説していきます
2-1 認知症対策に有効な家族信託の仕組み
認知症や脳梗塞が原因で判断能力が落ちた場合、資産の適切な管理や相続対策が困難になる可能性があります。
このようなリスクを考慮すると、家族信託が非常に有用な対策手段となります。
家族信託は、事前に信頼できる家族に財産管理の権限を委ねる制度です。
この制度を活用することで、自分が認知症の症状によって判断能力を失った場合でも、信頼できる家族がその責任を担うことができます。
さらに家族信託の最大のメリットとして、自分が健康な状態であれば、資産の管理状況を自分で確認できる点にあります。
これにより、自分が望む形での資産管理が行えるため、安心して将来を見据えることができます。
以上のように、家族信託は認知症や脳梗塞など、判断能力が低下するリスクに対する有効な対策手段です。自分の財産が適切に管理されるように事前準備しておくことが大切です。
2-2 認知症になる前に早めに家族信託の利用を
認知症のリスクが高まる高齢期に備え、家族信託の利用を早めに進めることが重要です。
家族信託は基本的に契約に基づくものであるため、認知症によって契約能力が失われた場合、新たに家族信託を利用することはできなくなってしまうからです。
ただし、認知症の症状には度合いがあり、軽度の状態であれば、家族信託の利用が可能になる場合も考えられます。
特に、軽度認知症(軽度認知障害)の段階では、日常生活や判断能力に大きな支障はないため、家族信託を活用できる可能性があります。
しかし、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症など、認知症が診断された場合、家族信託の利用は原則できなくなってしまいます。
上記でもお伝えした通り、高齢になると認知症になるリスクが高くなるため、早めに利用を進めていくことが重要です。
特に、65歳以上の人々においては、認知症のリスクが高まるとされているからです。
3 まとめ
認知症は高齢者に多く見られる疾患であり、その発症によって財産管理が非常に困難になる可能性が高いです。
このようなリスクに備えて、家族信託が非常に有効な対策手段となります。
家族信託は、自分が何らかの理由で財産を自分で管理できなくなった場合、指定した家族がその責任を担ってくれる制度です。
しかし、認知症が診断された場合や、判断能力が急速に低下している場合には、家族信託の利用が難しくなってしまいます。
認知症のリスクが高まる前に、しっかりとした財産管理の対策を講じることで、将来にわたって安心して生活を送ることができるのです。